大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和家庭裁判所 昭和40年(家)1563号 審判

申立人 水田辰男(仮名)

相手方 水田みき(仮名) 外三名

主文

一  被相続人水田一郎の遺産浦和市○○町○丁目八八番地所在木造瓦葺平家建居宅一棟建坪三四・三五坪(登記簿上は家屋番号○○町○丁目八八番床面積二一坪、別紙図面中、イロハニホヘトチリヌルオワカヨタレソツネナラムウエイ各点を順次直線をもつて囲んだ部分)を次のとおり分割する。

(一)  申立人水田辰男の取得分

別紙図面中、イロレソツネナラムウエイ各点を順次直線をもつて囲んだ部分

(ニ) 相手方水田富男の取得分

同ロハワカヨタレロ各点を順次直線をもつて囲んだ部分

(三)  相手方水田邦男の取得分

同ニホヘトチリヌルオワハニ各点を順次直線をもつて囲んだ部分

二  浦和市○○町○丁目八八番宅地一五九・五一坪(大石俊介所有名義)に対する借地権は申立人水田辰男相手方水田富男同水田邦男の共有とし、右三名は地主に対し第一項記載の家屋の各取得分の面積の比率に従つて賃料を支払わなければならない。

三  相手方水田邦男は、第一項記載の取得分を、相手方水田みきに対しその生存中無償で使用させねばならない。

四  相手方水田富男は、第一項記載の取得分のうち便所を、相手方水田みきに対しその生存中無償で使用させねばならない。

五  審判、調停費用は各支出当事者の負担とする。

理由

一、当事者

(一)  被相続人水田一郎は、昭和三七年三月一〇日死亡し、その共同相続人は妻たる相手方水田みき明治一五年一一月二五日生、長男たる相手方水田行男明治四〇年四月一五日生、次男たる相手方水田富男明治四二年一一月二一日生、四男たる申立人水田辰男大正七年一月二四日生、五男たる相手方水田邦男大正九年一一月六日生である(筆頭者水田一郎、水田行男、水田富男、水田辰男、水田邦男の各戸籍謄本)から、その法定相続分は相手方みきが三分の一、その余の当事者がおのおの六分の一ずつであるが、後記のとおり、相続開始後相手方みき同行男はいずれも浦和市○○町○丁目八八番地所在木造瓦葺平家建居宅一棟建坪三四・三五坪(登記簿上は家屋番号○○町○丁目八八番床面積二一坪、以下本件家屋と称す)に対するその持分を放棄している(相手方みき同行男に対する各審問)ので、申立人辰男、相手方富男、同邦男の本件家屋に対する持分はおのおの三分の一ずつである。

(二)  申立人辰男は、浦和中学卒業後外務省に勤務したが、病気のため昭和三〇年退職し、その後現在に至るまで失業中であるが、その退職資金をもつて木造瓦葺平家建居宅一棟建坪九坪及び木造亜鉛葺平家建居宅一棟を建築し、これが賃貸料月収金一万六、〇〇〇円と外務事務官たる妻の月収金二万円とを合わせて子供のない夫婦二人きりの普通程度の生活を営んでいる。しかして被相続人一郎死亡前から本件家屋中、別紙図面イロレソツネナラムウエイ各点を順次直線をもつて囲んだ部分に居住し現在に至つているが、本件家屋全部の所有を主張している。(申立人辰男に対する審問、新井調査官の調査報告書)

(三)  相手方富男は、商業学校卒業後洋服業を営み、その後株式会社○○テーラーの裁縫部長として勤務し月収四万九、〇〇〇円で、無職の妻と小学三年の長男小学一年の次男を養い、被相続人一郎死亡前から別紙図面中、ロハワカヨタレロ各点を順次直線をもつて囲んだ部分に居住し現在に至つているが、昭和四〇年五月から肺結核のため入院療養を続けそのため休職して僅か労災保険金として一ヵ月二万一、八〇〇円の支給を受けているに過ぎず、他に財産がないので生活やや苦しく、他に転居する資力はない。したがつて右居住部分の所有を主張している。しかして前記辰男居住部分と富男居住部分との境界をなすロレ各点を直線で結んだ部分は板をもつて仕切られ相互に交通できないような状況にある。(相手方富男に対する審問、新井調査官の調査報告書)

(四)  相手方みきは、恩給(扶助料)として一ヵ月金三、六〇四円子供達の仕送りとして一ヵ月金八、五〇〇円計一万二、一〇四円で独り生活し、他に財産はなく、別紙図面中、ニホヘトチリヌルオワハニ各点を順次直線をもつて囲んだ部分に居住しているが便所がないため前記富男居住部分の便所を使用している。しかして富男居住部分とみき居住部分との境界をなすニハワ各点を直線で結んだ部分は壁及び硝子戸をもつて仕切られみきは右硝子戸を開けて便所へ赴いている。なおみきは高齢であることと親として子供達の相互間の和平を願う気持とからして本件家屋に対するその持分の放棄の意思表示をしている。(相手方みき同富男に対する各審問、新井調査官の調査報告書)

(五)  相手方行男は、東京外国語学校卒業後外務省に入り、ラオス大使等を歴任して現在外務審議官として月収約金一〇万円の所得を得、神奈川県○○町大字○○字○○○○一、七三五番所在木造亜鉛葺平家建居宅一棟建坪四四坪を所有してこれに居住し、妻二男一女と共に裕福な生活を営んでいるため、本件家屋に対するその持分の放棄の意思表示をしている。(相手方行男に対する審問、新井調査官の調査報告書)

(六)  相手方邦男は、埼玉県師範学校卒業後教育界に入り、現在川口市立○○小学校教頭として月収約金五〇、〇〇〇円の所得を得ているが、自己所有家屋がないため現在妻、三女と共に浦和市営住宅に居住し、財産としては預金約金一〇〇、〇〇〇円以外にはないので、みきの生存中無償で使用させることを条件に前記みき居住部分の所有を主張している。(相手方邦男に対する審問、新井調査官の調査報告書)

二、遺産の内容

(一)  本件家屋、その敷地である浦和市○○町○丁目八八番宅地一五九、五一坪(以下本件土地と称す)に対する借地権、一郎名義の定期預金五万円及び埼玉県警察官恩給昭和三七年度第四期分金二万一、六二四円のみが遺産であり、他に一郎に債権債務、遺贈等いずれもなかつたことは当事者間に争いなく、しかして相手方みきが右金五万円を昭和三九年畳・襖の張替、テレビ購入代金として費消し、右金二万一、六二四円を一郎の医療費支払に充当して費消したので右金五万円及び金二万一、六二四円を遺産分割の対象としないことについて当事者は合意している。

(各当事者に対する審問、新井調査官の調査報告書)

(ニ) 本件土地は、一郎が本件家屋を新築した大正一二年頃みきの伯父大石俊介からこれを賃借したが、現在はその子大石久に対し地代月額金一、九〇〇円を申立人辰男、相手方富男両名が二ヵ月宛交替で支払つており、その他本件土地の使用関係については現状のままで当事者間になんらの紛争もない。しかして大石久も、本件家屋の新所有者と本件土地に対する賃貸借契約を締結すべく新所有者の決定を待つている。(新井調査官の調査報告書)

三、分割の方法

(一)  本件遺産分割の対象となるものは本件家屋及び本件土地に対する借地権のみに限ることとなるところ、申立人辰男は、本件家屋全部の単独所有を主張し、その理由として、被相続人一郎が生前本件家屋を申立人辰男に贈与したことや、相手方行男同富男同邦男がいずれも一郎の生前本件家屋についての条件付相続権を放棄したことを挙げているけれども、これら生前贈与や条件付相続権の放棄についてはこれを認めるに足る証拠がなく、その他相続開始後相手方富男同邦男が本件家屋に対する持分の放棄の意思表示をなしたと認めるに足る証拠もないから、申立人辰男の右主張は理由がない。したがつて前記のとおり、相手方みき同行男がいずれも本件家屋に対するその持分を放棄しているので、申立人辰男相手方富男同邦男の三名が本件家屋に対しおのおの三分の一ずつの持分権を有することになるものというべきである。

(二)  ところで本件家屋は一棟であるけれども、前記のとおり申立人辰男相手方富男同みき三名の居住部分に分かれ、申立人辰男と相手方富男の各居住部分は板をもつて仕切られて交通不能の状態にあり、また富男とみきの各居住部分は壁及び硝子戸をもつて仕切られ僅かにみきの居住部分に便所がないためみきは富男居住部分の便所を使用するほか、三名はおのおのその居住部分において独立の生計を営んでいる程であるから、本件家屋を右の

居住部分に分割することは可能である。しかして申立人辰男相手方富男同みきとも経済能力からしておのおの現居住部分から退去して他へ転居することは不可能であり、相手方邦男も経済能力からして自己所有家屋がないため現在浦和市営住宅に賃借居住しみきの生存中無償で使用させることを条件に前記みき居住部分の所有を主張している。

(三)  以上の諸事情を斟酌すると、主文第一項記載のとおり、本件家屋中申立人辰男居住部分(別紙図面中、イロレソツネナラムウエイ各点を順次直線をもつて囲んだ部分)を辰男に、相手方富男居住部分(別紙図面中、ロハワカヨタレロ各点を順次直線をもつて囲んだ部分)を富男に、相手方みき居住部分(別紙図面中、ニホヘトチリヌルオワハニ各点を順次直線をもつて囲んだ部分)を相手方邦男に、各分割取得させるを相当とする。もつとも浦和市長本田直一作成の固定資産、市民税に係る調査依頼に対する回答によれば、本件家屋一棟の固定資産評価額は金二七万四、四〇〇円となつているから、三居住部分の各価格の大小はおおむねその面積の大小により定まるべきものと解すべきであり、したがつて別紙図面によると三居住部分の各面積の大小価格の大小は申立人辰男相手方富男同みきの各居住部分の順となつているところ、元来申立人辰男相手方富男同邦男の三名が本件家屋に対しおのおの三分の一ずつの持分権があるから、三居住部分の時価を鑑定し各持分を価格算定したうえ超過取得者をしてその超過分を不足取得者に支払わせるべきであるが、不足取得者と認められるべき相手方富男同邦男がいずれも前記取得部分に満足してそれ以上取得することを希望しないことが窺われる(相手方富男同邦男に対する各審問、新井調査官の調査報告書)本件においては、超過取得者と認められるべき申立人辰男の本件全家屋所有の主張が前認定のとおり理由なきものである以上、その意思を問うまでもなく、時価の鑑定・各部分の価格算定・超過分の支払の必要はないものというべきである。

(四)  本件土地の使用関係については、前記のとおり、現状のままで当事者間になんらの紛争もないからこれを現状のままとして、本件土地に対する借地権はこれを申立人辰男相手方富男同邦男三名の共有とし、その賃料は右三名が主文第一項記載の本件家屋に対する各取得分の面積の比率に従つてこれを地主に対し支払うのが相当である。

(五)  相手方みきは、子供達相互間の和平のためその持分を放棄したものの他へ転居すべき経済能力はなく、相手方邦男も現在市営住宅を賃借居住しておつてその前記取得部分へ直ちに転居すべき必要に迫まられてもおらないので、その取得部分をみきに対しその生存中無償で使用させるのが相当である。

(六)  相手方みきは、その居住部分(邦男取得部分)に便所がないため富男取得部分の便所を使用せざるを得ない状況にあるから、相手方富男はその取得部分中の便所をみきに対しその生存中無償で使用させるのが相当である。

四、結語

よつて審判・調停費用は各支出当事者に負担せしめることとし主文のとおり審判する。

(家事審判官 松沢二郎)

別紙〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例